近年では、グリーンウォッシュと呼ばれる手法が頻繁に用いられるようになり、サスティナブルやエシカルを謳う商品やブランドも実情は異なるケースが多いと言われています。
そこで、どのようにしてサスティナブル・エシカルファッションを見分けるべきかのヒントにするため、信頼できるサスティナブル・エシカルブランドを評価している『2022 Remake Fashion Accountability Report』の要約をしてみました。
皆さんにとっても、参考になれば嬉しいです。
目次
1. レポートの構成
レポートでは、以下の5つの要素に分けて企業を評価したのち、企業ごとの評価を述べるという2段構成になっています。
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Traceability
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Wages & Wellbeing
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Commercial Practices
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Raw Materials
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Environmental Justice
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Governance
対象の企業は国際的に知名度の高い58ブランドを採用しているほか、先進的な取り組みをしている小規模のブランドも紹介しています。ちなみに、紹介されている小規模ブランドは以下になります
- ALOHAS
- Back Beat Co.
- Cotopaxi
- Doen
- For Days
- Ganni
- Hope for Flowers
- Known Supply
- LA Relaxed
- Lemlem
- MATE the Label
- Riot Swim
- Selva Negra
- TALA
- We are HAH
2. 二酸化炭素排出量の開示と改善しない数字
多くの企業が、二酸化炭素排出量を開示するようになった一方、毎年開示されている数字に着目すると、改善している企業は少なく、さらにその中でも初期に提示していたロードマップ以上の改善ができている企業は、ほとんど存在しないというのが現状です。
一時は、パンデミックの流行によって数字が改善しましたが、再び数値は悪化し始めています。
今後改善するにあたって、無視されてしまっている重要な視点は、カーボンニュートラル(二酸化炭素排出量を実質0にすること)を促進する際に、損失や負担を被る工場や農家への投資です。
ファッションブランドから二酸化炭素排出量だけを減らすように要請されるだけでは、利益が減り場合によっては生活していけなくなってしまいます。よって、ブランドが得た収益を還元し、生産効率自体を上げたり、サスティナブルな生産体制への初期投資を可能にするなどのサポートが必要です。
一部の企業では、二酸化炭素削減のために、取引先にインセンティブを設けることでこの問題を解決しています。
3. コロナによって顕在化した下請けが不利な商慣習
パンデミックが発生し、ファッションへの需要が落ち込むと、約40億着の服の生産が突然キャンセルされ、多くの人が解雇にあいました。
このような下請けの工場が一方的に不利な立場にある構造は見直されるべきであり、工場に対しての支払いを求める #payup キャンペーンが世界的に展開され、多くの人の支持を得ました。
ファッション業界が抱える問題の多くは、ファッションブランドからではなく、生産する過程に起きています。よって、ファッションブランドと生産工場や農家が一丸となってこの問題に取り組む必要があります。
3.1 生活賃金を支払う義務とその計算
Asia Floor Wage Alliance (AFWA)によると、バングラデシュやインド・カンボジアでは、ファッション業界の労働者は生活賃金(Living Wage)の1/3以下しか得られていません。
同業種よりも多くの賃金を払っているだけでは十分ではなく、そもそも必要な生活費(生活賃金)はいくらなのかを算出し、それ以上の給与を支払うことが求められています。
生活賃金の計算をどのように行なっているのか開示する企業も増えてきているため、今後は企業に生活賃金の計算も求められる時代が訪れそうです。
4. グリーンウォッシュとは
レポートでは、グリーンウォッシュについても多く触れられていたので、まずは言葉の定義から確認です。
https://ideasforgood.jp/glossary/greenwashing/グリーンウォッシュとは、環境に配慮した、またはエコなイメージを思わせる「グリーン」と、ごまかしや上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語。環境に配慮しているように見せかけて、実態はそうではなく、環境意識の高い消費者に誤解を与えるようなことを指す。
企業がブランドイメージを向上させたいという理由でありもしない「強み」をアピールしたり、環境や人々の体に良い影響を与えてるわけではないのに「天然由来」「自然由来」などの良さそうなイメージを宣伝した結果、グリーンウォッシュだと批判されることがある。
欧州委員会による2020年の調査では、世界のさまざまな企業サイトに対して横断的にスクリーニングを行ったところ、企業サイトの42% において「自社の取り組みはグリーンである」との主張が誇張されすぎている、虚偽である、または欺瞞的(=ほぼウソ)であることが発表された(※1)。
4.1 グリーンウォッシュ①:ステートメント
ファッション業界がカーボンニュートラルを達成することは不可能ではないですが、「環境にやさしい産業」を善意によって作り出すか、別の意図を持って作り出されるかによって、業界の行く末が決まります。
現在では、環境や労働問題に対する取り組みは、企業のイメージ戦略として用いられており、多くの場合は実態が伴っていません。
そのため、それっぽいステートメントとレポートだけを出し、具体的な改善には、つながっていないケースが多々見受けられます。これ以降に紹介する手法は、代表的なグリーンウォッシュとして、レポート内で度々言及されています。
※これらの手法を用いているすべての企業がグリーンウォッシュという訳ではなく、よくある見せかけの手法として多く用いられているという意味です。
4.2 グリーンウォッシュ②:古着の販売
自社サイト上で古着を販売可能にすることで、サーキュラーエコノミーを謳う企業が近年では多くみられますが、これらは企業の実態から巧みに目を背けさせる手段としても多く用いられています。
古着の販売を可能にすることで、新しく作る服が減るというのが本来の目的でありますが、実際はリユースと新品どちらも販売が上がるというデータがあるようで、顧客を自社の経済圏にとどめておくための打ち手としても注目を集めているようです。
企業のマーケティング施策として使用するのは問題ないのですが、収益を上げつつ、社会からのサスティナブルな取り組みへの圧力をかわし、消費者からの評価も上げられる手っ取り早い手段になってしまっているというのが現状なのです。
Patagoniaに代表されるリペアプログラムは、1つの服を長く着れるようにする本質的な取り組みであり、古着販売とは切り離して、もっと評価されるべき取り組みなのです。
4.3 グリーンウォッシュ③:回収プログラム
サーキュラーエコノミーのもう一つの取り組みとして、回収プログラムが挙げられます。回収プログラムも、企業の広告に使われることがありますが、多くの場合がグリーンウォッシングだと指摘されています。
課題となっているのは、回収プログラムの透明性の低さで、集められた服が、どこに届けられ、どの程度が処分され、チャリティー団体がどの程度取り扱い、収益はどのように使われているかが、ほとんど明示されていません。
回収された服のほとんどは、送られた先で処分されており、さらには服の処分の仕事は非常に低賃金であるといった事実もあるようです。
4.4 グリーンウォッシュ④:再生ポリエステル
再生ポリエステル素材の服が、サスティナブル素材として人気を集めていますが、実際はサスティナブルと言うには、まだまだ課題が残っているようです。
例えば、ペットボトルの場合は約10回再利用ができるのに対して、服の場合は1回限りで終わってしまうことがほとんであるため、わざわざ服に用いる必要が現状だとありません。(ペットボトルなどに活用した方が有益)
また、かなりの確率で再生ポリエステルとそうでない素材を混ぜて使用しているため、マーケティングとして謳われているほど環境への負担は少なくないのです。
5. 化学的根拠に基づいたアクション
これらのグリーウォッシュを見分けるためには、化学的な根拠に基づいて取り組みが行われているかをしっかりと評価する必要があります。
各企業は社会的な要請によって、年間でのレポートを出すケースが多くなっていますが、実施されている取り組みが化学的根拠に基づき、実際に企業の二酸化炭素排出量や労働環境の改善につながっているのかを確かめていくことを癖づけていく必要がありますね。