ファッション業界は、環境や社会に大きな影響を与える産業のひとつです。しかし、その裏では、環境破壊や人権侵害などの問題が横行しています。そんな中、環境や社会に配慮したファッションの取り組みが世界的に広がっています。その代表的なものが「エシカルファッション」です。
エシカルファッションとは何か?その定義と歴史、ヨーロッパで注目される理由、そして代表的なブランドと事例を紹介します。
目次
1. エシカルファッションとは何か?その定義と歴史
エシカルファッションとは、環境や社会に配慮したファッションのことです。具体的には、以下のような特徴があります。
- 環境に優しい素材や再生素材を使用する
- 労働者の賃金や権利、労働環境を守る
- 動物の保護やフェアトレードに取り組む
- 環境教育やチャリティー活動に参加する
エシカルファッションの起源は、2004年にフランスで開催されたエシカルファッションショーです。このイベントは、環境や社会に責任を持つデザイナーやブランドを紹介することで、エシカルファッションの意義や魅力を広めることを目的としています。このイベントは、ヨーロッパを中心にムーブメントを起こし、少しずつ世界に広まっていきました。
その考え方が重視されるようになったのは、2013年にバングラデシュにあるファッションブランドの縫製工場が入った8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」で起きた崩落事故が発端です。この事故では、安全基準を無視した建物の崩壊により、約1100人もの労働者が死亡しました。この事故は、大量生産・大量消費のビジネスモデルがもたらす環境や社会への悪影響を世界に知らしめました。この事故をきっかけに、アパレル企業は生産現場に責任を持つべきだという原則から「倫理的な」ファッションが求められ、「エシカルファッション」に取り組むようになりました。
2. ヨーロッパでエシカルファッションが注目される理由
ヨーロッパでは、エシカルファッションが注目される理由は、以下の3つに分けられます。
2-1. 自然環境や動物、人への配慮が高い文化や価値観がある
ヨーロッパでは、自然環境や動物、人への配慮が高い文化や価値観があります。例えば、以下のような取り組みが見られます。
- レジ袋の有料化やプラスチック製品の削減
- マイクロビーズや動物実験の禁止
- ベジタリアンやビーガンの増加
- フェアトレードやオーガニックの普及
これらの取り組みは、環境や社会に負担をかけない消費や生活を目指す「エシカル消費」の一環として行われています。エシカル消費とは、「人と社会、地球環境、地域のことを考慮して作られたモノを購入・消費すること」です。エシカル消費は、国連が掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)にも沿った取り組みであり、ヨーロッパではグローバルなトレンドに敏感です。
2-2. エシカルファッションの認証制度やラベルが発達している
ヨーロッパでは、エシカルファッションの認証制度やラベルが発達しています。これは、消費者にとってはエシカルファッションを選ぶ際の判断基準となり、企業にとってはエシカルファッションへの取り組みを証明する手段となります。例えば、以下のような認証制度やラベルがあります。
- GOTS(Global Organic Textile Standard):オーガニックコットンなどの有機素材を使用したテキスタイル製品に与えられる国際的な認証
- Fairtrade(フェアトレード):開発途上国の農民や労働者に公正な価格や待遇を保証する国際的な認証
- PETA(People for the Ethical Treatment of Animals):動物実験や動物素材の使用をしない製品に与えられる動物愛護団体の認証
- B Corp(Benefit Corporation):環境や社会に対する貢献度を評価された企業に与えられる国際的な認証
これらの認証制度やラベルは、エシカルファッションの基準や評価方法を提供し、消費者と企業の信頼関係を築くことに役立ちます。
2-3. エシカル消費やSDGsなどのグローバルなトレンドに敏感
ヨーロッパでは、エシカル消費やSDGsなどのグローバルなトレンドに敏感です。ヨーロッパ連合(EU)では、2030年までに温室効果ガス排出量を55%削減する目標を掲げており、その一環としてファッション産業にもサステナビリティを求めています。
ファッション産業は、世界の温室効果ガス排出量の約10%を占めると言われており、環境に与える影響は大きいです。そのため、環境負荷を低減するための取り組みが必要とされています。例えば、再生素材やバイオベースの素材の使用、水やエネルギーの節約、廃棄物の削減などです。
EUでは、2018年に「ファッション協定」というものが発表されました。これは、ファッション産業のサステナビリティを向上させるための行動計画で、以下の4つの柱で構成されています。
- 環境への配慮:温室効果ガス排出量や水資源の使用量を削減し、循環型経済を推進する
- 社会への配慮:労働者の人権や安全性を保障し、賃金や社会保障制度を改善する
- 消費者への配慮:消費者にサステナブルな選択肢を提供し、情報や教育を行う
- イノベーションへの配慮:サステナブルな技術や素材の開発や普及を促進する
このファッション協定には、多くのファッションブランドや団体が参加しており、エシカルファッションへの取り組みが加速しています。
3. ヨーロッパでエシカルファッションに取り組む代表的なブランドと事例
ヨーロッパでは、多様なエシカルファッションブランドが存在しています。その中から、特に人気のあるブランドをいくつかご紹介します。
3-1. ステラ・マッカートニー
イギリスの有名デザイナーであるステラ・マッカートニーは、動物愛護の立場から皮革や毛皮を使わず、再生カシミアやオーガニックコットンなどのサステナブルな素材を使用しています。また、環境保護団体や国連とも協力して、ファッション産業のサステナビリティを推進しています。
ステラ・マッカートニーは、自身がベジタリアンであることから、動物の権利を尊重するファッションを目指しています。そのため、皮革や毛皮はもちろん、シルクやウールなどの動物由来の素材も使用しません。代わりに、再生カシミアやオーガニックコットンなどのサステナブルな素材を採用しています。また、染料や化学薬品の使用量も最小限に抑えています。
ステラ・マッカートニーは、環境問題にも積極的に取り組んでいます。例えば、環境保護団体のグリーンピースと協力して、森林破壊や気候変動に反対するキャンペーンを行っています。また、国連の「ファッション産業憲章」にも署名し、温室効果ガス排出量の削減や再生可能エネルギーの使用などの目標を掲げています。
ステラ・マッカートニーは、エシカルファッションの先駆者として、世界中の消費者や企業に影響を与えています。彼女は、「私たちはファッション産業で働く者として、地球と人々に対して責任を持つべきだ」と語っています。
3-2. H&M
スウェーデン発のファストファッションブランドであるH&Mは、サステナブルな素材を使用した「CONSCIOUS PRODUCTS」を展開しています。また、不要になった衣類を回収しリサイクルする「GARMENT COLLECTING」や、持続可能な開発目標(SDGs)に沿った活動を行う「H&M FOUNDATION」などの取り組みも行っています。
H&Mは、ファストファッションのイメージとは異なり、エシカルファッションに力を入れています。その一例が、「CONSCIOUS PRODUCTS」です。これは、オーガニックコットンやリサイクルポリエステルなどのサステナブルな素材を使用した製品で、レディース・メンズ・キッズ全てに展開されています。H&Mは、2020年までに全てのコットン製品をサステナブルなものにするという目標を達成しました。
H&Mは、不要になった衣類を回収しリサイクルする「GARMENT COLLECTING」も行っています。これは、店舗で古着や布切れなどを引き取り、再利用や再生利用に回すというものです。回収された衣類は、新しい製品や素材として生まれ変わったり、社会貢献活動に寄付されたりします。
H&Mは、「H&M FOUNDATION」という非営利団体も設立しています。これは、SDGsに沿った活動を行うことで、持続可能な社会づくりに貢献することを目的としています。例えば、貧困や不平等の解消、教育や保健の支援、イノベーションや環境保護の促進などです。
H&Mは、ファストファッションブランドとして、エシカルファッションに取り組むことで、消費者や社会にポジティブな影響を与えています。彼らは、「ファッションは楽しくて創造的で、人々や地球に良いものであるべきだ」と語っています。
3-3. GUCCI
イタリアの高級ブランドであるGUCCIは、再生素材やバイオベースの素材を使用した「Gucci Off The Grid」コレクションを発表しました。このコレクションは、環境問題に取り組む活動家や芸術家たちとコラボレーションしており、エシカルファッションのメッセージを発信しています。
GUCCIは、ファッション産業のサステナビリティに積極的に取り組んでいます。その一例が、「Gucci Off The Grid」というコレクションです。これは、再生ナイロンやバイオベースのポリウレタンなどのサステナブルな素材を使用したバッグや靴などの製品で、環境負荷を低減することを目指しています。また、製品のパッケージも再生紙や植物由来のプラスチックなどのエコ素材で作られています。
GUCCIは、「Gucci Off The Grid」のキャンペーンに、環境問題に取り組む活動家や芸術家たちを起用しました。例えば、気候変動に反対するグレタ・トゥーンベリや、森林保護に尽力するジェーン・グドールなどです。彼らは、GUCCIの製品を身につけて、エシカルファッションの重要性や魅力を伝えています。
GUCCIは、高級ブランドとして、エシカルファッションに挑戦することで、消費者や業界にインパクトを与えています。彼らは、「私たちは自然と調和することで、より豊かで美しい暮らしを実現できる」と語っています。
3-4. ヴィヴィアン・ウエストウッド
イギリスのパンク・ロックの女王と呼ばれるヴィヴィアン・ウエストウッドは、フェアトレードや熱帯雨林保護などのチャリティー活動に参加しています。また、自身のコレクションでは、消費社会への批判や環境問題への警鐘を鳴らすデザインを展開しています。
ヴィヴィアン・ウエストウッドは、ファッション界の反逆者として知られています。彼女は、パンク・ロックやアングラ文化に影響された斬新で挑発的なデザインで世界的な名声を得ました。しかし、彼女は単なるファッショニスタではありません。彼女は、ファッションを通じて社会的なメッセージを発信することにも情熱を注いでいます。
ヴィヴィアン・ウエストウッドは、フェアトレードや熱帯雨林保護などのチャリティー活動に参加しています。例えば、アフリカの農民や職人と協力して作ったバッグや靴などの製品を販売し、収益の一部を彼らに還元したり、環境保護団体のグリーンピースと協力して、森林破壊や気候変動に反対するキャンペーンを行ったりしています。
ヴィヴィアン・ウエストウッドは、自身のコレクションでも、消費社会への批判や環境問題への警鐘を鳴らすデザインを展開しています。例えば、「BUY LESS, CHOOSE WELL, MAKE IT LAST」というスローガンを掲げて、消費者に質の高い製品を長く使うことを呼びかけたり、「CLIMATE REVOLUTION」というロゴを入れたTシャツやバッジなどを作って、気候変動に対する行動を促したりしています。
ヴィヴィアン・ウエストウッドは、ファッション界の伝説として、エシカルファッションの先駆者とも言えます。彼女は、「私たちはファッションで世界を変えることができる」と語っています。
まとめ
エシカルファッションとは、環境や社会に配慮したファッションのことです。エシカルファッションの起源は、2004年にフランスで開催されたエシカルファッションショーにさかのぼります。エシカルファッションの流れが世界に広まったきっかけは、2013年のラナ・プラザ崩落事故です。
ヨーロッパでは、エシカルファッションに関心が高い消費者が多くいます。その理由としては、自然環境や動物、人への配慮が高い文化や価値観、エシカル消費やSDGsなどのグローバルなトレンドに敏感であること、エシカルファッションの認証制度やラベルが発達していることなどが挙げられます。
ヨーロッパでは、多様なエシカルファッションブランドが存在しています。その中から、特に人気のあるブランドとして、ステラ・マッカートニー、H&M、GUCCI、ヴィヴィアン・ウエストウッドなどをご紹介しました。これらのブランドは、サステナブルな素材や技術を使用したり、チャリティー活動に参加したり、社会的なメッセージを発信したりすることで、エシカルファッションに取り組んでいます。
エシカルファッションは、ただ服を着るだけではなく、服を通じて人や地球に良い影響を与えることができるものです。私たちもエシカルファッションに関心を持ち、自分に合った選択肢を見つけてみましょう。