ファッション業界が抱える社会問題を環境・労働・動物愛護の観点に分けて解説します

ファッション業界が抱える社会問題を環境・労働・動物愛護の観点に分けて解説します

目次

1. はじめに

ファッションは私たちの生活に欠かせないものです。ファッションを通して自己表現をしたり、自分の気分を上げたりと、ただ着るだけではなく、様々な用途で使われます。私たちのニーズが多様化するに従って、アパレル業界の規模も大きくなり、私たちの生活だけでなく、社会問題へも大きな影響も与えるようになりました。

1.1 ファッション業界の規模と成長

ファッション業界は、世界経済の重要な産業の一つです。2019年には約2兆6000億ドル(約280兆円)の市場規模を持ち、今後も成長が見込まれています。ファッション業界は、消費者のニーズやトレンドに応えるために、常に変化と革新を求められています。特に、ファストファッションと呼ばれる低価格で高速な商品展開を行うブランドが、市場を牽引しています。ファストファッションは、私たちに多様な選択肢や手頃な価格を提供してくれますが、その裏では環境や社会に大きな負担をかけています。

1.2 ファッション業界が環境や労働問題に与える影響の概要

ファッション業界は、原材料の調達から生産、流通、使用、廃棄までのライフサイクルにおいて、環境や社会に多大な負荷をかけています。温室効果ガスの排出、水資源の消費と汚染、化学物質の使用と排出、廃棄物の発生と処理、生物多様性の損失などが環境問題として指摘されています。また、低賃金や不安定な雇用、人権侵害や差別、危険な作業環境や健康被害などが労働問題として指摘されています。さらに、動物性素材の使用や取引によって動物に対する残酷な扱いや密猟などが行われていることも問題となっています。

この後の章では、環境問題・労働問題・動物愛護問題の3つに分けて詳しく説明していきます。

2. 環境問題

私たちは服を着ることで自分自身を表現したり快適さを感じたりしますが、その一方で地球環境に大きなダメージを与えてしまっている場合があります。ファッション業界は温室効果ガス排出量や水資源消費量などで世界トップクラスの産業です。また、化学物質や廃棄物の管理も不十分であり、水や空気を汚染し生態系や人間の健康に悪影響を及ぼしています。さらに、森林伐採や土地利用変更などによって森林や土壌が破壊され、温室効果ガスの排出や生物多様性の減少などの問題を引き起こしています。

2.1 温室効果ガス排出量

ファッション業界は、世界全体の温室効果ガス排出量の約8%を占めており、これは航空運輸と海運を合わせたよりも多い量です。ファッション業界の温室効果ガス排出量は2015年から2030年までに50%以上増加すると予測されており、気候変動への対策が急務です。温室効果ガス排出量は製品製造段階で最も多く発生しており、特に化学繊維(ポリエステルなど)の製造には大量の化石燃料が必要です。化学繊維は天然素材よりも耐久性が高くコストも安いため、世界中で需要が高まっています。

温室効果ガス排出量を削減するためには、化学繊維の使用量を減らし、再生繊維や有機繊維などの使用を増やすことが必要です。また、化学繊維の製造工程で使用するエネルギー源を再生可能エネルギーに切り替えることも必要です。さらに、製品製造段階以外でも、原材料調達段階や流通段階や使用段階や廃棄段階でも、エネルギー効率を高めることや輸送距離を短くすることなどで、温室効果ガス排出量を削減することができます。

2.2 水資源消費量

ファッション業界は、世界全体の淡水資源(飲料水や農業用水など)の約20%を消費しており、これは世界人口が必要としている量の5倍分に相当します。水資源消費量は製品製造段階で最も多く発生しており、特にコットン(綿)など天然素材の栽培には大量の水が必要です。コットンは肌触りが良く吸湿性も高いため、世界中で需要が高まっています。水資源消費量は地域ごとに大きく異なります。例えば中国では1人あたり年間約7000リットル(浴槽約35杯分) の水をファッション産業で消費していますが、アフリカでは1人あたり年間約300リットル(浴槽約1.5杯分)しか消費していません。これは中国では化学繊維や染色工程が多く行われているためです。

水資源消費量を削減するためには、コットンなど天然素材の使用量を減らし、再生素材や合成素材などの使用を増やすことが必要です。また、コットンなど天然素材を使用する場合は、耐久性や品質が高く水耕栽培などの水資源消費量が少ないオーガニックコットンなどを選ぶことが必要です。さらに、染色工程などで使用する水の量を減らすことや再利用することなどで、水資源消費量を削減することができます。

2.3 化学物質使用量

化学物質使用量は、製品製造段階で約2500種類もの化学物質を使用しており、そのうち約10%が有害なものとされています。化学物質は、素材の加工や染色、仕上げなどに用いられ、製品の品質や機能性を高める役割を果たしています。しかし、化学物質は、水や空気を汚染し、生態系や人間の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、有害な染料や防炎剤は、皮膚や呼吸器の炎症やアレルギーを引き起こしたり、発がん性や内分泌攪乱作用を持ったりすることがあります。

化学物質使用量を削減するためには、化学物質の使用量を減らすことや代替物質を使用することが必要です。また、化学物質を使用する場合は、安全性や分解性が高く環境負荷が低いものを選ぶことが必要です。さらに、化学物質の管理や処理を徹底し、水や空気への排出を防止することが必要です。

2.4 廃棄物発生量

ファッション業界は、世界全体で年間約9200万トンの廃棄物を発生させており、これは日本の一般廃棄物の約2倍に相当します。廃棄物は製品製造段階や消費者使用段階で発生しており、その大半が埋立処分されたり焼却されたりしています。埋立処分された廃棄物は、分解に長い時間がかかったり有害ガスを発生させたりします。焼却された廃棄物は、温室効果ガスや有毒物質を排出します。また、海洋に流れ込んだ廃棄物は、海洋生物に被害を与えたり食物連鎖に影響を及ぼしたりします。

廃棄物発生量を削減するためには、必要以上に服を買わないことや長く服を着ることが必要です。また、不要になった服を寄付や交換したり再利用やリサイクルしたりすることが大切です。

2.5 森林破壊と土地利用変更

ファッション業界は、木材やパルプなどの原材料を得るために森林伐採を行っており、これが森林破壊の一因となっています。森林破壊は、温室効果ガスの排出や生物多様性の減少などの問題を引き起こします。また、ファッション業界は、牧草地や農地などの土地利用変更も行っており、これも環境への負荷となっています。

森林破壊と土地利用変更を防ぐためには、木材やパルプなどの原材料の使用量を減らし、再生素材や合成素材などの使用を増やすことが必要です。また、木材やパルプなどの原材料を使用する場合は、森林管理認証制度に従って調達することが必要です。さらに、森林保護や再植林などの自然保護活動に参加することが必要です。

3. 労働問題

ファッション業界は約6千万人の労働者を雇用しており、その多くが発展途上国で低賃金で過酷な労働に従事しています。また、女性や少数民族、移民などの弱い立場の労働者が多く、人権侵害や差別にさらされています。さらに、労働者は危険な作業環境や健康被害にも直面しています。

3.1 低賃金と不安定な雇用

ファッション業界の労働者は低賃金と不安定な雇用の問題に直面しています。ファッション業界の平均賃金は、最低生活費を満たすことができないほど低く、多くの労働者は貧困に陥っています。例えば、バングラデシュでは、ファッション業界の最低賃金は月約95ドル(約1万円)ですが、最低生活費は月約171ドル(約1万8千円)です。また、ファッション業界は、需要やトレンドに応じて生産量や納期を変更することが多く、労働者は解雇や時間外労働のリスクにさらされています。例えば、コロナ禍では、ファッション業界の需要が急減し、多くの労働者が失業したり未払い賃金を受け取ったりしました。

低賃金と不安定な雇用を改善するためには、労働者の賃金や雇用条件を改善し、最低生活費以上の収入を保障することが必要です。また、労働者の組合活動やストライキなどの権利を尊重し、労働者と雇用者との対話や交渉を促進することが必要です。さらに、需要やトレンドの変化に対応するために、生産計画や在庫管理を改善することが必要です。

3.2 人権侵害と差別

ファッション業界の労働者は人権侵害と差別の問題に直面しています。例えば、インドでは、ファッション業界の労働者の約8割が女性であり、そのうち約6割がセクハラや暴力を受けたことがあると報告されています。また、ファッション業界では、労働者の組合活動やストライキなどの権利が制限されたり抑圧されたりすることがあります。例えば、カンボジアでは、ファッション業界の労働者が最低賃金の引き上げを求めてストライキを行った際に、警察や軍隊によって暴力的に鎮圧されたことがあります。

人権侵害と差別を防止するためには、労働者の人権や差別の防止に関する教育や監査を行い、違反者に対して厳正な処罰を行うことが必要です。また、国際基準や条約に従って労働者の権利を保護し、労働者の声を聞くことが必要です。さらに、女性や少数民族、移民などの弱い立場の労働者に対して支援や救済を行うことが必要です。

3.3 危険な作業環境と健康被害

ファッション業界の労働者は危険な作業環境と健康被害の問題に直面しています。ファッション業界では、機械や化学物質などの安全管理が不十分であり、労働者は事故や怪我の危険にさらされています。例えば、バングラデシュでは、2013年にラナ・プラザ事件と呼ばれる、工場が崩壊事件で、約1100人の労働者が死亡しました。また、ファッション業界では、長時間労働や過酷な作業条件が常態化しており、労働者は疲労やストレスなどの精神的・身体的な負担を抱えています。例えば、中国では、ファッション業界の労働者は月平均約280時間(週平均約70時間)も働いており、そのうち約100時間(週平均約25時間)が時間外労働だとも言われています。

危険な作業環境と健康被害を改善するためには、労働者の安全管理や健康管理を強化し、作業環境や作業条件を改善することが必要です。また、労働者の労働時間や休憩時間を適正に管理し、過重労働や過度なストレスを防止することが必要です。さらに、労働者に対して医療や保険などの福利厚生を提供し、事故や怪我や病気に対して支援や救済を行うことが必要です。

4. 動物愛護問題

ファッション業界は動物性素材を多く使用しており、動物に対して残酷な扱いを行っています。また、絶滅危惧種や希少種の動物性素材の使用や取引によって動物の生存に危機をもたらしています。

4.1 動物性素材の使用

ファッション業界は動物性素材を多く使用しています。動物性素材とは、毛皮や革、ウールやカシミア、シルクやダウンなど、動物の毛や皮や羽などを原料とする素材のことです。動物性素材は、天然素材であることや保温性や耐久性が高いことなどの理由で、世界中で需要が高まっています。しかし、動物性素材を得るために動物に対して残酷な扱いを行っています。例えば、毛皮や革を得るためには、動物を生きたまま毛を剥いだり無麻酔で皮を剥いだりすることがあります。また、ウールやカシミアを得るためには、動物を不衛生で狭い場所に閉じ込めたり過剰に毛刈りしたりすることがあります。

動物性素材の使用を減らすためには、代替素材や合成素材などの使用を増やすことが必要です。代替素材や合成素材とは、植物や菌類などの生物由来の素材や化学的に合成された素材のことです。代替素材や合成素材は、動物性素材と同等かそれ以上の品質や機能性を持ちながら、動物に対する影響が少ないか無いものです。例えば、パイナップルの葉やココナッツの殻などから作られる植物由来の革や、バクテリアや酵母などから作られる菌類由来のシルクなどがあります。

4.2 絶滅危惧種や希少種の動物性素材の使用と取引

ファッション業界は絶滅危惧種や希少種の動物性素材の使用や取引を行っています。絶滅危惧種や希少種とは、生息数が減少しているか生息域が狭くなっている動物のことです。絶滅危惧種や希少種の動物性素材は、希少価値や高級感があることや伝統的な文化や宗教と関係があることなどの理由で、世界中で需要が高まっています。しかし、絶滅危惧種や希少種の動物性素材を得るために動物を密猟したり違法な取引を行ったりすることがあります。例えば、象牙やサイの角などを得るためにゾウやサイを密猟したり、トラやヒョウなどの毛皮を得るためにトラやヒョウを密猟したりすることがあります。

絶滅危惧種や希少種の動物性素材の使用や取引を防ぐためには、代替素材や合成素材などの使用を増やすことが必要です。また、絶滅危惧種や希少種の動物性素材を使用する場合は、国際基準や条約に従って調達することが必要です。さらに、密猟や違法な取引の防止に協力することが必要です。

5. まとめ

5.1 ファッション業界ができること

ファッション業界は、環境問題や労働問題、動物愛護問題などの重大な課題に直面しています。ファッション業界は、これらの課題に対して責任を持ち、持続可能な発展を目指すべきです。ファッション業界が持続可能性を高めるためには、以下のような取り組みが必要です。

環境面では、温室効果ガス排出量や水資源消費量などの環境指標を測定し、削減目標を設定し、実行することです。また、化学物質や廃棄物の管理や処理を徹底し、再利用やリサイクルを促進することも重要です。近年では、H&Mに代表されるように、サスティナブルレポートを作成し、科学的なデータを基にしながら改善を目指している企業も増えてきています。

労働面では、労働者の賃金や雇用条件を改善し、最低生活費以上の収入を保障することです。また、労働者の人権や差別の防止に関する教育や監査を行い、違反者に対して厳正な処罰を行うことです。各企業は直接雇用者に限らず、下請け企業の従業員に対しても責任を持ち、生産工程の透明化を進めることが重要です。下請け企業での労働問題は、ブランドからの利益配分が少ないことも影響しているため、十分な取り組みが行えるようにブランドが率先して投資を行う必要があります。

動物愛護面では、動物性素材の使用量を減らし、代替素材や合成素材などの使用を増やすことです。また、動物性素材を使用する場合は、動物の福祉や倫理に基づいた認証制度やラベリング制度に参加し、消費者に情報を提供することです。さらに、絶滅危惧種や希少種の動物性素材の使用や取引を避け、密猟や違法な取引の防止に協力することです。

5.2 消費者ができること

ファッション業界だけでなく、消費者も持続可能性を高めるためにできることがあります。消費者ができることは以下のようなことです。

環境面では、必要以上に服を買わないことや長く服を着ることです。また、洗濯や乾燥の方法や頻度を工夫することで、1つの服を長く着続けることが重要です。環境に配慮した取り組みを行なっている企業を積極的に応援することも非常に意味があります。購入だけが応援なのではなく、SNSなどを通して発信したり、友人に紹介したりといったことも非常に重要な役割です。

労働面では、労働者の賃金や雇用条件が適正であるかどうかを確認することや労働者の人権や差別が尊重されているかどうかを確認することです。近年では、生産工程を公開し、透明性を重視しているブランドが多く存在するため、そうしたブランドから購入するのが好ましいでしょう。

動物愛護面では、動物性素材の使用量を減らすことや代替素材や合成素材などの使用を増やすことです。また、動物性素材を使用する場合は、動物の福祉や倫理に基づいた認証制度やラベリング制度に従うことや消費者に情報を提供することです。さらに、絶滅危惧種や希少種の動物性素材の使用や取引を避けることや密猟や違法な取引の防止に協力することです。

5.3 おわりに

ファッション業界は私たちの生活に欠かせない産業ですが、同時に私たちの生活に影響を与える産業でもあります。私たちはファッション業界が抱える課題に目を向け、持続可能なファッションへの移行を支援する必要があります。私たちは一人一人ができる小さな行動から始めてみましょう。

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