初めまして、この記事は「原価の見える服屋さん」のことをより多くの方に知っていただくために書いています。
原価の見える服屋さんは、ブランド活動による環境負荷を差し引きで0未満にすることを目標にしています。そのため、エシカルな素材選びに加えて、トレンドは追わず王道の服のみを、染色なしの"きなり色"のみで販売をしているちょっと変わったアパレルブランドです。こだわりの生地と生産方法で作った服を出来るだけ多くの方に手に取っていただけるよう、原価率60%にて販売しています。
もし、ご興味を持っていただけたら、少しだけお時間をいただき、記事をお読みいただけたら嬉しいです。
目次
日常に潜む罪悪感
ふと、日々捨てているプラスチックの山を見た時や、環境保護や動物保護団体・難民問題に取り組むNGOなどの募金や協力を募る広告を見て見ぬふりした時、どうしようもない罪悪感や、やるせなさを感じた事はないでしょうか?
もし答えが”Yes”であれば、もしかしたら「原価の見える服屋さん」にもご興味を持っていただけるかもしれません。
なぜなら、私自身がそうした想いから、このブランドを、立ち上げるに至ったからです。
何かを犠牲にして成り立つ幸福
私は、学生の頃に東南アジアでボランティア活動をしていることがありました。今思えば、どれだけ真剣に取り組んでいたか不安になりますが、当時は寝る間も惜しんで国内で準備し、長期休みに現地を訪れる生活をしていた時期があります。
そこでは、社会的に弱い立場にある人々が搾取され、他の人々の生活を支える構図を目の当たりにしました。
しかし、よくよく考えてみると、普段の生活の中で、私が享受している多くのサービスもこれらのメリットを受けており、自分もその仕組みの一部であることに気づきました。
私は多くの社会活動家の方々のように、世界を変えるためにアクションできるほどの行動力も強い意欲も持つことはできていません。しかし、何かを犠牲にして成り立つ幸福を見て見ぬふりをして享受しつづけることに対しては、後ろめたさを感じてしまうのです。
ファッションとグリーンウォッシュ
ファッション業界は環境・労働問題の両面で多くの問題を抱えており、石油産業に続く世界2位の環境汚染産業と言われています。(これらについては環境庁のサイトにとてもわかりやすくまとめてあるので、ぜひご覧ください。)
しかし、ファッション業界が抱える問題は解決に向かうどころか、ファストファッションの登場による大量生産や激しい価格競争で、悪化していると指摘されています。
ここまでは比較的有名な話なのですが、こうした問題に課題意識を持つ方々が増えたことで、グリーンウォッシュという手法が増えていることは、あまり知られていません。
グリーンウォッシュとは、環境に配慮した、またはエコなイメージを思わせる「グリーン」と、ごまかしや上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語。環境に配慮しているように見せかけて、実態はそうではなく、環境意識の高い消費者に誤解を与えるようなことを指す。
ideasforgood.jp
この定義は少し極端かもしれませんが、例えば再利用素材を使っていても生産工程で大量の排気を出していたり、悪質な労働環境で作られたものが、エシカル商品として売り出されていることは少なくないようです。
こういった状況を踏まえると、エシカル消費をしたい人にとっては、ファッションブランドが公開している商品詳細では情報不足感があります。
フェアなプロダクトの課題
アパレル業界では、誰かにとってサスティナブルであろうとすれば、他の誰かに負担を強いることになる複雑な構造があります。
購入者にとって魅力的な価格の商品を提供しようと思えば、安価に請け負ってくれる製造会社さんに依頼したり、安価な生地を購入する必要がありますが、そういった場合は、労働者の賃金や環境が代償になっているケースが多いです。また、ファストファッションに代表される手法で、一定の数をまとめて発注することで、1枚当たりにかかる費用を落とそうとすると、在庫の余りが出て、廃棄量が増えることになります。(実際に新しく作られた服の1/4がそのまま捨てられるというデータもあります)
一方で、綿の生産から服の縫製までの一連のプロセスを労働者に十分な対価を支払った形(フェアトレード)で、かつ環境にも配慮すると、それぞれの工程で費用がかさみ、Tシャツだけでも原価が1万円を超えてしまいます。結局、1/10の価格で売っている大手のブランドに消費者は流れてしまいます。
つまり、環境や労働などの社会問題に真摯に向き合えば向き合うほど、製品の価格は上がり、競合に対して競争力を失う状態になってしまったのです。
これは誰が悪いという問題ではありません。資本主義という自由競争の中で、安くて良いものを求める消費者のニーズを満たすために生まれてしまった、構造的な問題です。
こんな問題をありのまま見せることで、共感いただけないかと考えたのが、原価の見える服屋さん誕生のきっかけです。
見せることで消費を変える
冒頭でも述べた通り、ファッションは環境問題や人権問題など、多くの問題を抱えていることはこれまでもずっと指摘され続けてきましたが、消費者の行動が変わる様子はあまりありません。
- 2014年に消費者が購入した衣類は、2000年に比べて60%増加したが、着用する期間は半分になった。
- 毎秒トラック1台分の衣類が、焼却あるいは埋め立て処分されている。(年間15億着ほど)
- 全体の85%の衣類が、毎年埋め立て処分される。これは、毎年シドニー湾を埋め立てられる量だ。
- 衣類の洗濯により、毎年50万トン(500億本のペットボトルに相当)のマイクロファイバーが、海に流れ出ている。
- マイクロファイバーは、海に流れ込んでも分解されない。
- 海のプラスチック汚染は、その原因の最大31%がマイクロプラスチックによるものだと推計されている。
- 人間の活動で排出される二酸化炭素のうち10%は、ファッション産業によるもので、
- 国際線航空便と海運を合わせた量より多い。
- ファッション産業は、世界で2番目に水を多く消費する産業だ
- 木綿のシャツを1着作るのに、1人の人が3年半飲める量の水が必要となる。
- 生地の染色は、世界で2番目に大きな水の汚染源となっている。
- 産業に起因する世界中の水質汚染のうち、20%はファッション産業が原因となっている。
引用:LIFE INSIDER, https://www.businessinsider.jp/post-200862
私の原体験
2015年の夏、私は海外への興味と英語学習の一助として、マレーシアでの約1ヶ月のボランティア活動に参加しました。理由は本当にそれだけで、社会貢献なんてことは微塵も考えていませんでした。
しかし、実際に貧困に苦しむこどもを目の当たりにすると、考え方が180度変わらざるを得ませんでした。なぜかというと、「世界のどこかで苦しんでいる人」のことを具体的に想像できるようになってしまったからです。
真剣にボランティアに取り組むようになると、何よりも気になったのが、「誰が彼らを苦しめているのか」という疑問です。この問いの答えは、調べれば調べるほど、憂鬱な気持ちになりました。
なぜなら、彼らを助ける側になったと思った自分自身が、まさに彼らを苦しめている当事者の一人だったからです。都合の悪い真実は綺麗に隠されて、私たちは知らず知らずに誰かの犠牲を伴う仕組みの中で、そのメリットを享受して生きています。
こんな言い方をすると、被害者っぽくなりますが、この深刻すぎて解決不可能な社会問題に、私たちが思い悩まないようにと、用意された「お節介な嘘」にも思えてきます。
私は、この気づきをきっかけに、積極的に募金やエシカル消費を心がけるようになりました。
見えなきゃ変われない
自分がボランティアを通して気づいたことと同じで、自分の目で見ないと本当の意味で当事者意識を持つことは難しいのではないかなと思います。
今のファッションブランドのウェブサイトや店頭の説明には、低い原価率も、原価を抑えるために酷使されている人々も、犠牲になっている自然や動物も、書かれていません。書かれていないことをわざわざ疑問に思うこともないので、てっきり自分が買っている服は、多くの人が苦しみに、自然が破壊されて作られた服だなんて思う由もありません。
近年では、グリーンウォッシュと言って、"環境にやさしい感じ"や"人権に配慮している感じ"を醸し出して、消費者に誤認させるような宣伝も増えています。実際に、欧州委員会の調査では、グリーンな取り組みを謳う企業の42%は誇張または嘘であるという報告もあります。
ファッションは環境や人権に対して深刻な問題を抱えていることは聞いたことがあっても、実際に目で見る機会はないので、当事者意識を持って問題を受け止めきれません。
原価の見える服屋さんが、そんな方々にとっての、最初のきっかけになったら嬉しいなと考えています。
原価の見える服屋さんの誕生
原価の見える服屋さんは、徹底的に全部見せます。全部というのは原価だけに限らず、使用している素材や提携している工場さん、各取組みやブランドとしての収支まで、全て公開しています。
その上で、ブランドとして原価率を限界まで引き上げ、エシカル商品としては業界最低水準で提供できるように心がけています。色染めや、ロゴのプリント、ブランド専用の紙袋なども一切行わず、シンプルにエシカルな服をお届けすることを徹底することで、原価部分も削減しています。
全部見た上で、考え方が変わる人は、もっとたくさんいるはずだと信じています。私たちの商品を買っていただく必要はありません。何かしら、日常に変化を生むことができたら十分なのです。